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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)4601号 判決

主文

一  被告霞工業、同山崎興業及び同山崎は、原告に対し、連帯して、金二億〇〇七六万九五〇〇円及び内金七六万九五〇〇円に対する昭和五二年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告は、被告霞工業に対し、金一九二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五二年六月七日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

三  原告のその余の請求並びに被告霞工業の原告に対するその余の請求及び被告神津に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告霞工業、同山崎興業及び同山崎との間においては同被告らの負担とし、被告霞工業と被告神津の間においては被告霞工業の負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。

理由

一  昭和五二年(ワ)第二八五四号事件について

1  請求原因1ないし3(原・被告の主たる営業目的、本件契約の締結、被告山崎工業及び同山崎の連帯保証)は、当事者間に争いがない。

なお、本件契約には、被告霞工業が約束の期間内に本件工事の完成引渡しをしないときは、遅滞日数一日につき代金額の一〇〇〇万分の一以内の違約金を支払う旨の約定があつたことについては、被告らは明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。

2  本件工事の完成引渡しの遅滞による損害賠償請求について

(一)  右争いのない事実と《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件契約においては、当初、本件工事の完成日・昭和四九年四月末日、検査及び引渡しの時期・完成から三〇日以内と定められていた。

(2) しかし、その後、原告と被告霞工業間で次のとおりの合意が成立した。

ア まず、原告と被告霞工業、同山崎興業及び同山崎は、昭和四九年五月二八日、本件契約のうち、〈1〉代金総額を六億五六六〇万円に増額(ただし、以後は、本件全工事完了引渡しまで一切増額しない。)、〈2〉当初四工区であつたのを別紙図面記載のとおり七工区に変更、〈3〉工事完成期日を、第三工区及び第一期濾過槽・昭和四九年七月一〇日、第四工区・昭和四九年八月九日、第二期濾過槽・昭和四九年一一月二五日、第五ないし第七工区・昭和四九年一一月二五日(工事完成とは、(都市計画法による廃止前の)住宅地造成事業に関する法律(以下「宅造法」という。)に基づく認可官庁の検査合格の日とする。)、〈4〉第四工区の工事遅延の場合の遅延損害金の起算日は昭和四九年八月二一日からとする、等の内容の変更契約を締結した(以下「本件変更契約」という。)。

イ 次いで、原告と被告霞工業は、昭和四九年一〇月二三日、本件契約及び本件変更契約に関する紛争につき和解契約を締結し、本件工事の完成期日を、第三工区・昭和四九年一一月一〇日、第四、第五工区・同年一二月二五日、第六工区・昭和五〇年二月一五日、第七工区・同月末日とし、工事遅延の有無も右各期日を基準とする旨を約した。

ウ さらに、原告と被告霞工業は、昭和五〇年二月一七日ころ、右和解契約に付帯して覚書を取り交わし、〈1〉本件工事の完成期日を、第四工区・昭和五〇年二月一〇日、第五工区同年三月一〇日、第六工区同月一五日、第七工区同月末日と変更する、ただし、今後は事由の如何を問わず完成期日の変更をしない、〈2〉本件造成地につき、今後事由の如何を問わず地盤沈下・擁壁の崩壊・破損・傾斜、道路・濾過槽・下水道などの諸設備の地盤沈下等による破損その他の瑕疵が生じたときは、被告霞工業の責任と負担において補修するものとする、ただし、右瑕疵が不可抗力により生じたときは、この限りでないとすること、等を合意した。

エ その後、被告霞工業は、原告に対し、昭和五〇年四月一六日、五〇〇〇万円の工事代金を受領した際、本件造成地の第四、第五工区については、同月二五日までに、宅造法の規定に基づく住宅造成事業に関する工事の検査済証(以下「検査済証」という。)を交付することを確約し、第六、第七工区についても、同年五月一五日までに完成の上検査済証を渡す旨の念書を差し入れた。

オ また、原告と被告霞工業は、昭和五〇年六月一三日、同被告が、第四、第五工区の茨城県から命ぜられた手直し工事及び第六、第七工区の工事を昭和五〇年七月二〇日までに完了する等の協定書を取り交わした。

(3) ところで、本件工事の完了時期等は、次のとおりであつた。

工事完了届出 検査済証交付日

第二工区 昭和四九年四月三〇日 昭和四九年五月一三日

第三工区 昭和四九年一一月二二日

第四工区 昭和五〇年五月七日 昭和五〇年五月三一日

第五工区 同日 同日

第六工区 昭和五〇年八月二〇日 昭和五一年四月二一日

しかし、第七工区については、埋立が終わつた段階で工事が中断されたままである(なお、原・被告霞工業のいずれからも、右部分の本件請負契約の解除等の手続が取られた形跡もない。)。

(二)  以上認定の事実によれば、本件工事の完成日については、最終的には次のとおりになつたものと認めるのが相当である。

第二工区 昭和四九年四月末日

第三工区 昭和四九年一一月一〇日

第四、第五工区 昭和五〇年四月二五日

第六、第七工区 昭和五〇年七月二〇日

そして、本件契約によれば、原告への引渡しの時期は完成日から三〇日以内とされている(この約定がその後の合意によつて変更されたとは認められない。)から、前示検査済証交付日(その日に本件造成地の各工区の引渡しがあつた趣旨であると認める。)が約定の完成日から右期間内にある第二、第三工区については工事の遅延があつたものとはいえない。

また、第四、第五工区の遅延日数は、六日、第六工区は二四五日、第七工区は四九九日(原告の主張している昭和五一年一二月末日まで。なお、本件においては、もはや被告霞工業に残債務を履行することを期待できないことは明らかであるから、第七工区についての本件請負契約の解除等の適切な措置をとることなく徒に時を過ごし、完成が遅れたとしてその期間全部の予定の損害賠償を請求できるとするのは衡平を失することになるけれども、原告が本訴で求めている程度の期間は合理的なものと評価すべきである。)

(三)  ところで、《証拠略》によれば、

(1) 本件工事代金は、原則として、毎月二〇日現在の出来高の八〇パーセントを翌月一〇日に支払う約定であつた。

(2) 原告の担当者が査定し、その旨を被告霞工業に通知した右出来高の八〇パーセントは、次のとおりであつた。

〈1〉昭和四九年二月二一日一億五八二五万一二〇四円、〈2〉同年五月九日五一四三万八〇〇〇円、〈3〉同年六月二一日二一七五万三六八八円、〈4〉同年一一月一一日一三九四万三八八〇円、〈5〉同年一一月二八日二七一二万一四〇〇円、〈6〉同年一二月一二日一七〇一万八一二〇円、〈7〉同年一二月二六日二〇九〇万八八二四円、〈8〉昭和五〇年一月一一日一一五一万一三六四円、〈9〉同年一月二八日二七二八万七二三三円、〈10〉同年二月一三日一六二二万九七六七円、〈11〉同年二月二六日八〇〇万二五六七円、〈12〉同年三月一四日一三四三万九四七三円、〈13〉同年四月二日八七〇万円、〈14〉同年六月一〇日一二〇〇万円、〈15〉同年六月二六日七二二万二二〇四円

(3) ところが、原告のこれに対する支払は、原告が事実摘示欄四抗弁に対する認否及び被告らの主張に対する反論2(一)で主張するとおりであつて、必ずしも(1)の約定どおりではなかつた。

(4) したがつて、前示の完成日の変更の合意をした際には、右変更の点だけでなく、原告の被告霞工業に対する工事代金支払についても約定されていた。

(5) しかし、その合意中では、被告霞工業の工事完成遅延による違約金の支払については全く言及されていなかつた(前示のように、地盤沈下等による損害賠償責任についての約定をした昭和五〇年二月一七日の覚書においてもそうである。)。

そして、本件に関する原告と被告霞工業との間で取り交わされた最終的な合意書面である昭和五一年八月二一日の約定書にも、第一ないし第六工区内の道路、宅盤等の補修工事、舗装工事を被告霞工業が昭和五一年一〇月二五日までに完成させること、これを遅滞したときは、一日につき代金額の一〇〇〇分の二の損害金を支払うこと、その他原告の被告霞工業に対する金員の支払、右補修工事代金の最終負担者等については継続的に折衝する旨等を約束しただけで、その他の工事遅延による違約金の支払関係については全く触れられていないことが認められ、これらの事実からすれば、原告は、被告霞工業に対し、遅くとも昭和五一年八月二一日、本件工事遅延に関する損害賠償(違約金)請求権を放棄する旨の黙示の意思表示をしたものと評価するのが相当である。

(四)  次に、原告は、右違約金の支払のほかに、販売環境激変等による損害の賠償をも求めているが、原告は、前記のとおり本件契約において、損害賠償額の予定がされていたことを自陳しているのであるから、右額以上の損害が生じてもこれを請求することは許されないというべきであるから、右請求は主張自体失当である(なお、原告主張のような不況等の社会状況の激変があつたことは当裁判所に顕著であるが、それによつて、原告主張の額の損害が生じたことを認めるに足りる証拠もない。)。

3  本件造成地の瑕疵による損害賠償請求について

(一)  前示争いのない事実と《証拠略》によれば、次の事実が認めることができる。

(1) 本件土地は、とも浅間沼と呼ばれる沼地であつて、被告山崎が所有していたものであり、同被告は宅地を造成して分譲することを計画し、被告霞工業にその工事を請け負わせたが、宅造法第四条の規定による住宅地事業の施行の認可申請にあたつては、被告霞工業を事業主とすることとした。

そして、被告霞工業は、茨城県知事に対し、昭和四七年四月一八日、本件土地約一三万一〇〇〇平方メートル全面埋立とし、沼面に接する部分等には五ないし三メートルのPC矢板打込とし、タイロット止めする等の内容で宅造事業の認可を申請し、同年五月一八日、右知事から認可を受けた。なお、被告霞工業においては、本件土地の地質調査をしたことはなく、したがつて、盛土による通常の程度の地盤沈下以上に地盤沈下の生ずることを前提とせず、要するに土砂で全面を埋め立てこれを宅地にする計画であつた。

(なお、《証拠略》によれば、被告霞工業は、昭和四五年四月九日にも、本件土地(もつとも施行地区の面積は一〇万八八五八平方メートルとなつている。)につき、同様の申請をし、同月一一日、認可されていることが認められるが、これと今回の認可との関係は不明である。)

(2) ところが、不動産業者の仲介で、被告山崎から原告に対し、昭和四七年一一月ころ、本件土地売買の話が持ち込まれ、被告山崎は、原告に対し、昭和四八年一月一一日付けで、本件土地を価格一三億五〇〇〇万円で売ることを承諾する旨の不動産売渡承諾書を差し入れた。ただ、原告は、あくまで宅地を分譲することを業とするものであつて、建築土木を業とするものではなかつたので、右取引に当たつても、宅造法による造成完了検査済み後の有効宅地部分を取引対象とするものとされた。

そして、原告は、被告山崎との間で、同年二月一日、被告霞工業を被告山崎の連帯保証人として、本件土地を八億五〇〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を締結するとともに、右同日、被告霞工業との間で、本件契約を締結した。

(3) 本件契約には、工事名として本件土地の宅地造成工事と表示されているのみで、詳細な見積書あるいは設計図面等が添付されていない。しかし、原告と被告霞工業とは、前記認可にかかる工事内容にしたがつた工事をすることを当然の前提としていたものであり、右認可に関する一件書類が原告に交付されている。

なお、被告霞工業は、前記事業認可の申請目的からも明らかなように、本件土地を宅地として分譲することを目的としていたものであり、本件契約締結に際しても、原告がこれを宅地として分譲する目的で購入したものであることを認識していたが、被告霞工業ないし同山崎から、本件造成地の地盤沈下のおそれや、その場合のより費用を要する地盤改良工事の必要性について言及されたことは全くなかつた。

(4) その後、被告霞工業は、本件土地の造成工事を進め、前示のような経緯はあつたものの、遅くとも昭和五一年四月二一日までには、第七工区を除き工事を完了し、茨城県の担当者の完成検査を受け、同県知事から検査済証の交付を受けた。

(5) ところが、本件造成地は、各所で、現在までに一メートルくらい地盤沈下し、そのために、宅盤に水溜まりが、道路に凹凸が生じ、排水溝の勾配がなくなつて円滑に流れず、また、道路に埋設された水道管が破損し上水道の水漏れが生じる等の不都合が生じていることが認められる。

また、本件造成地北側沼地及び東側河川の護岸が傾斜し、ひび割れが生じている。

今後も、徐々に地盤沈下が生じる可能性が大であり、これを放置すると、特に排水溝、上下水道、道路、護岸などの支障が増大する蓋然性が大であり、本件造成地上の建物居住者の生活にも重大な影響を及ぼす危険性がある。

(6) そして、本件造成地に右のような地盤沈下が生じた原因は、本件土地がもともと台地中に樹枝状に発達した谷底低地に位置し、沼地であつて、その地盤は超軟弱(腐植土層及び粘性土層が約一二~一三センチメートルくらい堆積していると考えられる。)であり、地下水や水脈が入り組んでいる可能性が大であつたから、ボーリング、土質・水質調査等の地盤調査をし、これに基づき適切な埋立法や地盤改良法を選択すべきであつたのに、被告霞工業は、地盤調査を全くせずに、当初は単に土砂を埋め立て、途中から地盤改良法を施したものの、安易に三~四メートルまでのヘドロをケミコライザー工法(ケミコライムという土質安定及び地盤強化材料を対象土地と均一に混合し、所定の反応時間後に整地転圧地表面のタイヤローラーなどの静的圧力による機械的締固め)を行う表層処理工法)という不十分な地盤改良法を選択施工したことにあり、また、岩盤まで達しない五メートル程度のPC矢板を護岸工事に用いたことによるものである。

(二)  ところで、請負契約の仕事の目的物に瑕疵があるというのは、完成された仕事が契約で定められた内容どおりでなく、使用価値若しくは交換価値を減少させる欠点があるか、あるいは、当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点を有することであるところ、前示のとおり、被告霞工業は、同被告が前記認可申請をする際に提出した計画どおりに工事を施工し(したがつて、盛土が不足しているとの原告の主張は認めがたい。)、その旨の完成検査も受けているのであるから、契約で定められた内容どおりであつて、瑕疵がないといえないでもない。

しかし、原告が本件土地を買い受けたのは前示のような経緯と目的によるものであつて、本件契約の内容が一応右認可にかかる計画どおりとなつたのも、原告としては、それによつて、宅地として十分使用することができ、問題なく販売することができるものであることを前提としていたものである。そして、被告霞工業においても、分譲宅地を造成することを被告山崎から請け負い、そのために前記認可申請をし、また本件契約を締結したのであつて、その際、特段の留保もしていない以上、本件契約によつて定められた仕事の具体的内容は、少なくとも、宅地としての使用に耐え分譲することのできる程度の土地(その程度の致耐力を有する土地)を造成することであつたと解すべきである(このことは、原告と被告霞工業間の昭和五〇年二月一七日付けの覚書で「本件造成地につき、今後事由の如何を問わず地盤沈下・擁壁の崩壊・破損・傾斜、道路・濾過槽・下水道など諸設備の地盤沈下等による破損その他の瑕疵が生じたときは、被告霞工業の責任と負担において補修するものとする、ただし、右瑕疵が不可抗力により生じたときは、この限りでないとする」ことを約していることからも、十分窺える。)。

そうして、前示事実によれば、本件造成地が右性格を欠く土地であることが明らかであるから、本件造成地には瑕疵があるというべきである。

(三)  被告霞工業は、本件地盤沈下は不可抗力であると主張するが、前記事実、特に同被告が本件土地が沼地であることを認識しながら、全く地質調査もせずに本件工事を開始していることからしても、右主張は採用できない。

また、被告霞工業は、護岸工事につき、二〇メートルのPC矢板に変更することを申し出たところ、原告が一部しか変更することを承諾しなかつたからその限度で工事をし、また、地盤改良工事についても、原告が費用のかかる工法を拒絶したなどと主張するが、請負契約の性質及び前示のような本件契約内容からすれば、被告霞工業は、本件土地を宅地として使用に耐えるように造成する義務を負つたものであり、仮に、着工後に工事内容の変更が必要になつたとしても、原則として、被告霞工業の責任と負担において施工すべきものであり、原告が代金額の増額に応じなかつたとしても、完全な工事をする義務を免れるものではない。もつとも、施主である原告が、明確にある工事を拒絶した場合は格別であるが、本件においては、前掲各証拠によれば、原告は、工事の変更自体を拒絶したのではなく、それによる増加費用の負担を拒絶したにすぎないと認められるから、いずれにしろ、被告霞工業が縷縷主張する理由をもつて、前記瑕疵に基づく損害の賠償責任を免れることはできないというべきである。

(四)  そこで、前記瑕疵に基づく損害について検討する。

(1) まず、原告は、本件瑕疵によつて二億七一七三万円相当の損害を被つたと主張するが、右損害額を認めるに足りる証拠はない。

(2) また、被告霞工業が原告に対し、上水道浄水装置の設置、専用水道許可申請、境界石を埋設すべき債務を負担したことを認めるに足りる証拠はなく、右諸費用が前記瑕疵と因果関係のある損害とも認められない。

さらに、第三回設計変更費を被告霞工業が負担すべきであるとする理由も見い出しがたい。

(3) 《証拠略》によれば、原告は、本件造成地の地盤沈下のために、

ア 昭和五一年九月六日、株式会社渡辺電務社に対し、七六万九五〇〇円相当の水道配管改修工事を依頼し、右代金を支払つたこと(なお、上水道修理代八六万五〇〇〇円を支払つたことを認めるに足りる証拠はない。)

イ 本件造成地内の道路の補修整備工事費として、平成三年から平成五年までの間に、合計一億二六〇八万五九四〇円の出捐を余儀なくされたこと

ウ 道路に埋設された水道管の破損による漏水工事費として、昭和五八年から平成四年まで合計二三〇三万八二五五円の出費を余儀なくされたことを認めることができ、これらは、前記瑕疵と因果関係のある損害であると認めることができる。

(4) また、《証拠略》によれば、本件造成地の瑕疵を修復するためには、次のとおりの工事が必要であることが認められるから、これにようする費用合計六億二八四九万円は本件瑕疵と因果関係のある損害というべきである。

ア 本件造成地の地盤沈下を抑止するためには、軟弱地盤中に低圧でセメントスラリーを注入し、現位置で軟弱な地盤土と混合撹拌し、所要強度の固結硬化体を造成しその安定強化を図るNEX工法による地盤改良工事が最適であり、その費用は五億八三六五万円を要する。

イ 護岸についても、NEX工法による地盤改良をした上、上部を掘削し擁壁を建造することが必要であり、それに要する費用は合計三九八四万円が見込まれる。

ウ 配水設備の補修が必要であり、これに要する費用は少なくとも五〇〇万円を下らない。

4  最後に、原告は、岩井市に対する納付予定額を損害として請求しているが、これが被告霞工業の前示のような債務不履行ないし瑕疵ある工事によつて生じたものでないことは明らかであり、どのような経緯によつて納付義務が生じたのか(原告主張のように被告霞工業が岩井市に対して負担したものであるなら、原告が同市から請求されるいわれはないはずである。)、真実その法的な義務があつたのか等を明確にし得る的確な証拠はないので、右請求は認めがたい。

二  昭和五二年(ワ)第四六〇一号事件について

1  請求原因1(営業目的、当事者の地位)、2(本件契約締結)の事実は、当事者間に争いがない。

2  《証拠略》によれば、

(一)  本件工事は、第一工区から順に第七工区まで進行させていく約束であつたところ、原告の都合で、第四工区に先立ち第五工区を造成分譲することになつたため、被告霞工業は、工事の手順に変更が生じ、本来必要でなかつたPC矢板の移動をせざるを得なくなり、そのために、合計一三一万三〇〇〇円を要したこと

(二)  被告霞工業は、昭和五〇年五月ころ、本件造成地の東側水路について、地元の土地改良区の理事長や岩井市の係員から、本件工事による土砂の流出により水流が悪くなり、農業用水利用に支障があるとしてその浚渫を求められ、そのころ六一万二〇〇〇円の費用をかけて浚渫工事をしたことが認められる。これらは、原告の都合ないし本件工事から生じたものであつて、被告霞工業の工事ミスによるものとは認められないから、原告の負担すべき経費に当たるというべきである。

3  しかし、請求原因3(三)ないし(五)については、一で説示した理由により(矢板の長さについても、当然被告霞工業において、事前の調査により十分知り得、これに対応すべきものであつた。そのため、請負代金が増額するのであれば、本件契約締結時にそれを提示すべきである。)、注文主である原告の同意が得られない限り、当然に請負人である被告霞工業が負担すべきものと解するのが相当であるから、いずれも被告の請求は認めがたい。

4  さらに、原告の被告霞工業に対する請求の理由のあることは前示のとおりであり、また、相被告であつた茨城県に対する訴えは取り下げられたものの、原告と右県との間には示談が成立していることは当裁判所に顕著であり、その上、原告の訴状等における表現に徴すると、原告及び被告神津に対する、原告が昭和五二年(ワ)第二八五四号事件を提起し、主張したことによる損害賠償請求も理由がないといわざるを得ない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は二億〇〇七六万九五〇〇円及び内金七六万九五〇〇円に対する被告らに対する訴状送達の日の後である昭和五二年四月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、被告霞工業の請求のうち、原告に対し、一九二万五〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五二年六月七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが、原告に対するその余の請求及び被告神津に対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 赤塚信雄)

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